おじいちゃん先生のカップラーメン

エッセイ&コラム

ただただ頭がさがる。このコロナ禍で毎日ひたすらに診療を続ける先生方。
尊敬してやまない私のまわりのお医者さんたちのおはなしです。

2022.夏は感染者数が過去最高レベルに増えた。

私の務める診療所のおじいちゃん先生は感染者数がピークに達した頃、毎日暗い顔をして愚痴ばかり言っていた。
普段の患者さんに加え、発熱外来の患者さんが押し寄せる。診療は完全にパンク寸前だったから、毎日昼休憩を取る暇もなかった。

なんで診療が逼迫するのか。

発熱外来は、診察をしたら、そのあとが大変。陰性・陽性判定で終わりではない。
PCR検査や抗原定性検査などで陽性となれば、検査結果が分かり次第、患者さん本人に電話で連絡し、保健所に登録する。

この保健所への登録がないと、患者さんのもとに保健所からのSMSの連絡が届かない。
混んでいて保健所からの電話連絡がなくてもHER-SYSに登録できなくてもこのSMSだけは陽性の連絡を受けたら患者さんに1番に届いているはず。

これは先生の登録が終わって保健所に登録が済んだから。

陽性の人はこのSMSの連絡さえくれば、療養施設への申込や配食の依頼などはできるし、病状変化の緊急時の連絡先なども記載されているので、とりあえず次のステップには移れると思う。

これは経験していないと分かりにくいところではあると思いますが。

そしてこの保健所の登録は診療時間内に行っている。普段の患者さんの診療の合間にやっているので診察がおす。さらに別枠で来る発熱患者さんの診察もおす。さらに発熱患者さんも増える。

昼ごはんが食べられない。ある日はコンビニのパンをかじりながら、ある日はゼリー飲料を吸いながらひたすらパソコンに向かう日々。

診療が終わってからやることはできない。登録が済まないと患者さんに保健所から連絡が行かないし、陽性患者さんは待っている。また明日になれば次の患者さんが押し寄せる。陽性患者さんの頭数が多くてさばく数自体が多い。なかなか終わらない。診療時間外にやろうものなら家に帰れなくなる。

そして耐久レースのように先が見えない。

感染者数がピークの頃、我々も医療者として、前線を助けようと、今が頑張りどきと先生。
受け入れの数を増やすことにした。その結果登録の数が増え、診療がパンク寸前の日々が続いた。

先生は毎日イライラとし、言葉尻が荒くなった。そのうち怒りをあらわす余裕もなくなり、次第に肩を落とし、うなだれるようになった。
ある日電話で理不尽な物言いをした患者さんからの言葉を、受付から伝えられ、憤りは言葉もなって噴出した。激しく怒鳴り声を散らして怒った先生。先生は限界に来ている。鬱になってしまう。スタッフはみんなそう思っていた。

だけど、そんな先生わ見ていられなくなってきた頃、診療所には夏休みが来た。

夏休みが明けると、先生の顔色は良くなった。普段は口数は多くないけど気さくに話しかけてくれる穏やかな先生。
すっかりその雰囲気を取り戻していた。夏休みが明けてしばらくはまた忙しかったけれど、ピーク時の忙しさとは全く違った。

次第に昼休みも取れるようになり、先生はある日カップラーメンを買ってきていた。

「お、今日は早く終わったからこれが食べられる」と楽しそうにカップラーメンの外側のビニールを剥いでいる。しかも大きいタイプのやつ!

私は午前の業務を終えて着替えて挨拶に行く。

「先生、お先に失礼します。」とラーメンをすする背中に声をかけた。

「お疲れ様」といつものように振り返る先生。カップラーメンのカップを持って麺を持ち上げたまま、招き猫みたいに目尻を下げていた。

その顔がとても幸せそうで忘れられない。先生本当によかったね。束の間の休息ゆっくり休んでくださいね。

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